2013年1月8日火曜日

トヨタ式顧客開発法

リーン・スタートアップ  ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
エリック・リース
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新年に読むにふさわしい本です。
変化の激しいこの時代では、多くのエンジニアが読むべき本だと思います。

クリステンセンはイノベーションのジレンマ(本Blog記事:努力が我が身を滅ぼす時)で、破壊的イノベーションと継続的イノベーションの差異を説明し、ジェフリー・ムーアは、キャズム(本Blog記事:キャズム)で顧客セグメントの断絶を示しました。

しかし、多くのスタートアップがキャズムに出会えるのは幸運で、その前に製品開発ではなく顧客開発という言葉で、顧客の課題を的確に捉えることがスタートアップの第一歩だと示したのが、アントレプレナーの教科書(まだ本Blogにまとてません。)です。

では、その顧客開発を科学的に管理し、システムとして組織が行うことは可能なのか。それを端的に示したのが本書だといえると思います。

しかも、個人的に感動したのがトヨタ生産方式を参考に、このスタートアップの方法をまとめていることです。

トヨタ生産方式
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トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして
大野 耐一
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トヨタ生産方式は、よく誤解がありますが、ニーズからの出発を掲げています。
それは、当時でいうと少量多品種の市場のニーズを満たすことでした。

そのためには、フォード流の単純大量生産方式では、太刀打ちできないという課題がありました。そこで、徹底的にムダを省くことに着目し、方法としてジャスト・イン・タイムと、自働化の二本柱で実行が勧めらました。

ジャスト・イン・タイムは当時としてはコペルニクス的展開だったと思います。大量バッチの生産の方が単純作業で、効率的と考えますが、全体として見た時に最適でないことが本書を読むとわかると思います。

また、トヨタ生産方式が優れていることは、これがトヨタの経営/組織体質と一体化していることです。本書でも、”経営に直結する製造技術”と述べています。


話をリーンスタートアップに戻しましょう。
顧客開発では、満たすべくニーズが本当に正しいかを組織として無駄なく見つける必要があります。

本書で、自分が開眼した部分があります。

アイデアを出し、製品化し、市場からのフィードバックをもらう(データ)。
大雑把にいうと、製品の開発のループはこうなるでしょう。

このループで、多くの人は、すばらしいアイデアを出し、品質の高い製品を作ることに多くの時間を割きます。(少なくとも自分はすばらしいアイデアが出た時に、そのアイデアに酔いしれるタイプですし、多くの人はそのアイデアを具現化するために、多くの時間を費やして製品化を行うと思います。)
しかし、"むしろ大事なのは、このフィードバックループの一周に要するトータルの時間を最小にすることだ。"とリーンスタートアップは示しています。

なぜなら、その素晴らしいアイデアは、困ったことに市場でまったく成功しないからです。

ムダの少ないトヨタ生産方式のように、ムダの少ない顧客開発を行うには、実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)で、客観的にも判断できる正しい計測尺度でフィードバックをし学習する必要があると主張します。
なぜなら価値を本当に生み出す顧客のニーズにあった製品開発以外はムダだからです。
(トヨタ生産方式では、付加価値を生むのに必要でない作業はムダとして改善するべきものと考えます。)

では、そのような組織体制を作るにはどうすればいいのででしょうか。

そのためには、トヨタ生産方式と同じで、開発の体勢もバッチサイズをどんどん小さくする必要があると述べています。ソフトウェアでは、このバッチを小さくするという概念は適応しやすい分野です。それは、細かいバーションアップや、機能の追加は比較的容易だからです。

しかし、ハードウェアでも、近年は多くのツールが開発されています。今ではお馴染みの、3DCADや、Augmented Realityなどを駆使すれば早い段階で、様々な問題点を把握できますし、今流行出している3Dプリンターも活用できます。

開発のバッチサイズを小さくし、早い段階でループの学習を行う必要があるのです。ソフトウェア開発ではウォーターフォール型での開発体勢ではなく、アジャイル型の開発を行うべきなのです。


Appleはスティーブ・ジョブズという天才的な経営者であり、かつ、消費者がいたために、市場のニーズを満たした破壊的イノベーションを行うことができました。しかし、一人の天才に会社の組織を任せられる企業がどれだけあるでしょうか。

日本は、継続的イノベーションは得意で、破壊的イノベーションは苦手だといわれることを耳にします(かつてのSONYなど、破壊的イノベーションを実践した企業があるにもかかわらず)。

しかし、システム的に改善していくことには非常に長けていると言われます。もし、その噂が事実だとして、リーンスタートアップが科学的に優れた手法であるなら、そういった開発体勢を構築し展開できる人物が日本にもいれば、新たなスタートアップが日本の企業でも多く躍進できることになるかもしれません。

そうです。トヨタが経営にまで影響を与えている、トヨタ生産方式を日本で生み出したように、イノベーション工場が日本で"オペレーション"される日も近いのでは。とそんな期待を新年から抱かせてくれる。そんな本でした。

今年もよろしくお願いします。

Memo

food on the table
http://www.foodonthetable.com/
(個人的に使ってみたいサービス。日本では展開していない模様)

コホート分析
http://jp.techcrunch.com/archives/20110923kissmetrics-helps-you-hone-in-on-stats-that-actually-matter-with-cohort-reports/
Evernoteでのコホート分析について
http://jp.techcrunch.com/archives/20100528video-evernote-ceo-phil-libin-shares-revenue-stats-and-how-to-make-freemium-work/

アジャイル開発
http://japan.zdnet.com/sp/sp_06sp0130/20248727/

スプリットテスト

フレデリック・テイラー
科学的管理手法

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